【虹彩Vol.30 Web版ページ】ドクターのお話 胸腔鏡手術について

教えて!ドクター
胸腔鏡手術について
肺の手術は、十数年前までは胸部をメスで10~30センチほど切開し、肋骨を折って行う開胸手術が一般的でした。直接目で見て、手で触れることが可能なため、不測の事態にも対応しやすいというメリットがありますが、傷口が大きいため、特にご高齢の患者さんへの身体的負担は大きく、術後の合併症の危険性もあります。
最近では、手術時の傷の範囲が非常に小さく、出血量も減少できる「胸腔鏡手術」が多く取り入れられています。わずか数センチの傷で肺の手術を行うことができ、術後の痛みも少なく、早期退院が可能といわれています。
近年、増加傾向にあるこの「胸腔鏡手術」について、当院外科医の持永浩史先生にお話を伺いました。
持永 浩史 外科

Mochinaga Koji

胸腔鏡手術とは?
胸腔鏡手術とは、胸に数か所の小さな穴を開けて行う手術方法です。切開創から、「胸腔鏡」といわれる細長いカメラと手術器具を挿入し、モニターに映る中の様子を見ながら手術を行います。
背中から脇の下にかけて大きく切開し、肋骨の間を広げて行う開胸手術と比較して、傷が小さくてすむという利点があります。
胸腔鏡手術の対象疾患は?
胸腔鏡手術の対象となりうる病気は、自然気胸、肺癌、胸部の腫瘍性疾患、感染性疾患などです。
ただし、実際に選択する術式は、病変の部位や大きさ、年齢、基礎疾患、体格など、様々な条件によって判断しています。第一に優先すべきことは手術の安全性と治療の根治性ですので、手術中の状況によっては、胸腔鏡手術から開胸手術へ変更する場合もあります。
胸腔鏡手術の対象となりうる病気
  1. 1.自然気胸 …肺の一部が破れて空気がもれ、肺が縮んで正常に膨らむことができなくなる病気
  2. 2.肺癌 …肺の気管、気管支、肺胞の一部の細胞が何らかの原因によって癌化した病気
  3. 3.胸部の腫瘍性疾患 …縦隔腫瘍、胸壁腫瘍、神経原性腫瘍 など
  4. 4.感染性疾患 …膿胸(胸膜の感染症により、胸腔内に膿性の液体がたまる病気)など
メリット・デメリットは?
開胸手術と比較した場合、患者さんの身体的負担が少なく、早期に退院が可能な胸腔鏡手術ですが、いくつかの欠点もあります。
胸腔鏡手術のメリットとデメリットを踏まえたうえで、個々の患者さんに最適な術式を決断することが外科医の責務と考えています。
胸腔鏡手術のメリット
  1. 1.傷が小さい 術後疼痛が軽く、早期離床が可能で、傷関連の合併症が少ない。
  2. 2.切断する筋肉が小さい 呼吸筋が温存され、術後の呼吸関連合併症の軽減につながる。
  3. 3.モニター視が可能 術者のみならず、助手や麻酔科医・看護師も術野を確認できる。
胸腔鏡手術のデメリット
  1. 1.適応疾患が限られる 大きな病変などの場合は開胸せざるを得ず、病気の種類や進行具合によっては、はじめから開胸手術を行った方がよい場合がある。
  2. 2.専門的知識と技術が必要 直に目で見て、手で触れることができる手術とは異なり、モニター視によって手術器具を操作しながら行う手術であるため、専門的知識や技術が必要。

■ 胸腔鏡手術と開胸手術の比較

  胸腔鏡手術 開胸手術
メリット ・傷が小さい
・疼痛の軽減
・早期離床
・傷関連の合併症の低下
・呼吸筋の温存
・モニターの共有
・直接手で触れる
・直接目で見える
・トラブル発生時に対応しやすい
デメリット ・適応疾患が限られる
・直接臓器に触れない
・専門的知識・技術が必要
・傷が大きい
・疼痛を伴う
・呼吸関連の合併症増加
ドクター紹介

外科医長

持永 浩史
Mochinaga Koji
近年、呼吸器外科の分野では、胸腔鏡手術を行えることが当然の事項として求められるようになっています。しかし、専門性の高い分野であり、長崎市内においても、専門医が常勤する病院は限られています。
気胸や肺腫瘍など、呼吸器外科に関するご相談がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
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